春の掛軸

春の掛軸とは
掛軸。季節は春。季節もの掛軸の中でも、春の掛軸はひときわ華やかで人目をひく美しいものです。
春にかける掛軸には、春の季節に合わせた画題(絵柄)として、桜(さくら)、桃(もも)、牡丹(ぼたん)、菜の花(なのはな)、藤(ふじ)、躑躅(つつじ)、春蘭(しゅんらん)、木瓜(ぼけ)、木蓮(もくれん)などを飾ることができます。
春の掛軸として飾る代表的なものは桜と桃ですが、いち早く春を告げる花として梅も春の花として受けとめられます。
この章では春の掛軸の種類や選び方について触れていきます。
春に芽生える草花は、四季折々に淡色の柔らかな色彩を放ち花開いてゆきます。桜、桃のほかにも牡丹、菜の花、春蘭、木瓜、木蓮などが咲き、春の掛軸の画題(絵柄)として描かれます。
花と共に蝶や鳥を合わせた花鳥画掛軸、お雛様や桃の花を飾るひな祭り『上巳(じょうし)の節句』の掛軸、鯉のぼり、兜、武者などを飾る菖蒲の節句『端午(たんご)の節句』の掛軸もあります。
和歌などを掛けても風流ですが、代表的な画題(絵柄)を取りあげてみます。
ここでは季節の春夏秋冬の四季のうち、春の掛軸を選ぶ参考にして頂くことを目的として、12ヶ月の掛軸で挙げた具体的な画題(絵柄)の抜粋と、春の掛軸はいつ、どんな時にかけるのか、また、春の特徴的な情感として感覚描写(センス)の一例を挙げていきます。
(画像) 掛軸 飯尾剛史 山合い
春の掛軸 商品
季節もの掛軸
四季。春夏秋冬。春。ここでは、季節もの掛軸の四季の画題(絵柄)のうち、春にかける掛軸として、春の季節掛け、桜(さくら)桃、(もも)、牡丹(ぼたん)、春蘭(しゅんらん)の掛軸をご紹介します。
春の風物詩

お花見の季節です。新しい年度がはじまり、入学の式典があります。4月8日には、お釈迦さまの誕生日である灌仏会(かんぶつえ)があります。5月5日には菖蒲の節句『端午(たんご)の節句』があります。季節の掛軸は風物詩を感じるものを選びたいですね。
(画像) 掛軸 塚下静庵 桃
春を描いた有名画家
春を描いた画家はいったいどれぐらいいたのでしょうか。見方をかえれば春を描かなかった画家などいないぐらいに、春とは愛される季節なのではないでしょうか。
川合玉堂、橋本明治、速水御舟、時代を彩る先鋭画家たちは、春という美しい季節を、時には斬新に、時には流麗に描きました。
斬新で大胆な構図や新しい顔料や素材を用いて様々な独自の表現を試みました。
屏風や掛軸として表装された作品の中には、重要文化財に指定され、美術館に所蔵される作品もあります。
奥村土牛、今尾景年、今井景樹などの桜の絵も有名ですね。
春の掛軸の種類

春の掛軸の種類には、うららかな季節を楽しむ花の画題(絵柄)が好まれます。それらの花と鳥を合わせた花鳥画掛軸などを飾るのもおすすめです。
春の季節の風雅ただよう詩歌の掛軸は味わいがあります。季節に合わせた春の禅語を選んでかけるのも良いですね。春のお彼岸には名号掛軸を掛けます。
季節の節目に邪気を払う節句の掛軸としては、3月3日のひな祭り『上巳(じょうし)の節句』、5月5日の菖蒲の節句『端午(たんご)の節句』の掛軸があります。
(画像) 掛軸 千村俊二 桜花
春の掛軸の選び方

たくさんの春の掛軸の中から最良の一幅(いっぷく)を選ぶとき、何を基準に選べばよいのでしょうか。すべての条件を満たす必要はありませんが、いくつか挙げてみます。
先ず、春の掛軸を掛ける目的を明確にします。床の間を華やかにしたい時や、豪華にしたい時は装飾性の高い画題(絵柄)を選びます。深い味わいを好む場合は「詫び寂び(わびさび)」の美意識を踏まえた春の掛軸を選びます。
四季に合わせた季節の掛軸は、季節もの掛軸の章でも触れたように、画題(絵柄)の時期より少し早めに掛け、潔く引く。早々に新しい季節を迎え入れる。その頃合いが大切です。
五節句の内の菖蒲の節句ともよばれる「端午(たんご)の節句」などの春の行事や風物詩をうまく取りいれると季節感も増します。
もてなす相手の状況をよく知り、お祝いしたいのか、励ましたいのか、共に思い出を共有したいのかといった迎えいれる目的を明確にし、選ぶ春の掛軸の画題が即したものかを吟味します。
更には、目的に合わせて選んだ春の掛軸が春の情感をたたえたものが望ましいでしょう。
(画像) 掛軸 島田稔明 枝垂桜
春の情感 感覚描写(センス)

春(はる)。その言葉を耳にするだけで私たちは優しさに包まれます。手足はひとりでにのびのびし、心が解き放たれます。春があるから何かを期待し、きびしい冬も乗り越えられます。
古来、日本には春を讃えた和歌がたくさんあります。
「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」(在原業平)
桜があまりにも美しく、いつ咲くか、いつ散ってしまうのかと気になってしかたがない。いっそ、この世の中から桜がなくなってしまえば、どれほどのんびりした気分でいられるだろうか。最高の賛歌ですね。
何故、私たちはこんなにも春を愛し、待ち焦がれ、その季節をめざしてしまうのでしょうか。それは、人々が春という季節に様々な想いを重ね合わせているからではないでしょうか。
幾年にもおよぶ精進、共に暮らし乗り越えた労、近しい人を案じて成長を見守り、健やかさを望んだ願い。それらが報われ成就し花開くことを、私たちは、いつしか春という季節に託したのではないでしょうか。
(画像) 掛軸 内田逸郎 山桜(桜花小禽)
春の禅語の掛軸
禅語の掛軸は茶席で掛けられる場合が多く、春の禅語の掛軸としては、以下の様なものがあります。ほかにも沢山ありますが、いくつかご紹介します。
・春色無高下
(しゅんしょくこうげなし)
季節は春の訪れを告げ、春の光はわけへだてなくふりそそぎ。春に満ちあふれています。それでも、時に人は異なるものを遠ざけ、真理の立場から見ればすべて同じであることを忘れてしまうものだ。
・百花春至
(ひゃっかはるにいたる)
・千里春如錦
(せんりのはるにしきのごとく)
・桜花微笑春
(おうかびしょうのはる)
梅の掛軸

梅の掛軸は12月から3月頃まで掛けます。冬が明ける前にいち早く春の訪れを感じさせてくれる梅は、日本文化に馴染みが深く、昔からおめでたい花とされてきました。
春告草(はるつげぐさ)、匂草(においぐさ)などの別名をもち、その花の色は白、淡紅、紅色などがあり、つぼみのうちと開いたときの花の色のちがう美しいものもあります。
「かさねの色目」を彷彿とさせる微妙な花の色の変化は、平安貴族が着衣に自然の色をとりいれ、配色作法としたのも頷けます。馥郁(ふくいく)たる梅の香りともいわれ、匂いたつようです。
「四君子」のひとつでもあります。中国で君子とは徳と学識、礼儀を備えた人を指しました。花の持つ特徴が、まさに君子の特徴と似ていることから、蘭、竹、菊、梅の4種のうちの冬の花として取りあげられ、早春の雪の中で最初に花を咲かせる強靭さに人々は心を打たれました。
また、「松竹梅」のひとつで松や竹と同じくらい縁起がよいとされました。「松竹梅」は中国の「歳寒三友(さいかんさんゆう)」が日本に伝わったものです。
松と竹は寒中にも色褪せず、梅は寒い冬に花ひらく事から、「清廉潔白」と「節操」という文人の理想を表現したものでした。
慶事、吉祥の象徴として、おめでたいとされる日本の認識とは違いますが、どちらの解釈も良いこと尽くめですね
掛軸としては梅だけを描かれるほか、正月には鶴と亀をとりあわせた「松竹梅鶴亀」、ほかに、漢詩から由来して「梅に鶯」はとりあわせがよく美しく調和するものとされ、仲の良い間柄にたとえられています。
(画像) 掛軸 竹内勝源 白梅
桜の掛軸

桜の掛軸は2月月下旬から4月頃まで掛けます。寒桜に添い、もうすこし早めでもよいでしょう。
夢見草(ゆめみぐさ)、徒名草(あだなぐさ)などの別名をもち、そのハラハラと風に舞う花びらが美しく、儚くも潔い様は、日本人の精神にもたとえられます。
白、淡紅、濃紅色の花の色。一重のものや八重のものが咲く姿は、まさに桜花爛漫です。小鳥と桜をあわせた桜花小禽図もとても愛らしいですね。
また、幾度となく散っても年を越しては蘇る樹齢千年を超える桜も見事です。私たちの国の花であり、同窓の友や僚友と別の道を歩み、新しい友と出会う節目に咲くことから、祝賀や記念の式典の折りに桜の掛軸を掛けることで、特別な日が更に印象に残る日となることでしょう。
(画像) 掛軸 中沢勝 三隅大平桜
桃の掛軸

桃の掛軸は2月から4月頃まで掛けます。桃の花はまたたくように咲くのではなく、ゆっくりと開花するので、お花見をするにも掛軸を眺めるにものんびりできます。
花色も白色、桃色、赤色があり、葉色の美しいものもあります。その咲き誇るすがたに桃源郷とはこのようなところかと浮世をはなれてみたくなりますね。
中国では神や仙人に力を与える木とされ、邪気を払うとされました。
ひな祭り「上巳(じょうし)の節句」に桃の花を飾ったのも同様の意味合いがあったため、桃の掛軸をこの日に掛けるとよいですね。
その果実は、日本神話や古事記の中でも魔除け、厄除けの意味を成しました。また、桃は兆の字の如きと、子に多く恵まれるともいいます。
桃の花の掛軸は、神聖な美しい姿を見せてくれます。
(画像) 掛軸 辰本青花 桃の図
お雛様の掛軸

3月の掛軸の種類には、ひな祭り(桃の節句)に床の間に飾る立ち雛(たちびな)や座り雛(すわりびな)などの節句の掛軸があります。
雛人形は座り雛が主流ですが、掛軸では歴史の古い立ち雛が多く見受けられます。3月3日にお雛さまの掛軸を掛け、女の子の健やかな成長を願い厄除けをします。
牡丹の掛軸

牡丹の掛軸は4月から6月頃まで掛けます。春牡丹、冬牡丹。二季咲きもあるのと格式が高い花のため正月や慶事などのめでたい日や、季節を問わず掛けることもできます。
富貴花、天香国色などの別名をもち、赤、紫、薄紅、黄、白色の花を咲かせるその花の美しさから、中国、また、わが国でも詩歌に盛んに謳われました。そして、多くの絵師に描かれました。
格の高い花の掛軸は、迎えるお客様に襟をただし礼をつくす心尽くしになることでしょう。
(画像) 掛軸 出口華凰 牡丹
春蘭の掛軸

春蘭の掛軸は3月から4月頃まで掛けます。春蘭の花は横を向いて咲き、萼片(がくへん)と側花弁(そくかべん)は黄緑か緑でつやがあります。唇弁(しんべん)は白色で薄赤紫色の斑点があり、溝のようで縦にひだがあり、くるりと巻き込む。葉は細長く曲線を描く。野生種であり、その野趣や素朴さが好まれますが、そのすがたは凛としていて格好よく、あくまでも流麗で美しい。
「四君子」のひとつであり、春の花としてほのかな香りと気品をそなえるとされました。中国で君子とは徳と学識、礼儀を備えた人を指しました。蘭、竹、菊、梅の4種の持つ特徴が、まさに君子の特徴と似ていることから、文人たちはこれらの花に強い憧れを抱きました。
憧れる対象とは素晴らしすぎるもので、目指してもその境地にはなかなか到達しない。そこで文人墨客(ぶんじんぼっかく)は、そのすがたを散文、書画の題材にしてなぞらえました。
目を澄まし模倣することで、理想のすがたとの間に均衡を保ち心を浄化しました。春蘭の花が横を向いて咲くすがたは、気高い人がそっぽを向いているようで、どこか可愛らしいですね。
春蘭茶は桜茶と並んでおめでたい席には欠かせないものです。摘みたての春蘭を塩に漬け、お湯をそそいでいただくお茶とは何と風流でしょうか。その花は、日常でも和え物や天ぷらにしたり惣菜の添え物にしたりと、日々の生活を楽しませてくれます。
蘭湯(らんとう)は中国から伝わったもので端午の節句の日に春蘭の葉をいれて沸かした湯につかると邪気を払うとされ、菖蒲湯のはじまりといわれています。
春蘭の掛軸は、春のおとずれを告げ、人々の理想のすがたを表し、清々しい世界を見せてくれることでしょう。
(画像) 掛軸 塚下静庵 春蘭
そのほかの春の掛軸

そのほかの春の掛軸には、菜の花、木瓜(ぼけ)、木蓮、躑躅(つつじ)、藤(ふじ)などがあります。
(画像) 掛軸 木本大果 木蓮
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