夏の掛軸とは

掛軸 夏

中国の楊貴妃は、夏になると暑さをしのぐため、しばしば軽い絹を身に着け、宮女に風をあおらせ、背の高いつる棚の下で歌ったといわれます。つる棚を使えば暑い太陽の下でも長く外にいられるからです。人々にとって歌を聴くことは熱を冷やすための高度な方法とみなされていたようです。

また、川の氷を運び地下室に入れ、草の上に積んで氷室(ひむろ)にさせ、角氷を使って熱を逃がしたといいます。時にはその氷が取り出され、鳥、獣、鳳凰などの様々な形が職人によって彫られ、部屋を冷やすために置かれたそうです。なんとも優雅ですね。

わが国ではすこし趣きが違うようです。「涼を取る」とは心意気のようなものでしょうか。

打ち水をし、清める。そよ風が立つ。簾(すだれ)をかけてその透き影をたのしむ。朝顔のつるをつたわせ風の通り道をつくる。風鈴の音に風の声をきく。夕涼みをする。

長きにわたり継続する文化には、それらが生まれた背景があります。その中には小さな風習から始まったものもあります。私たちは暑さをしのごうとしてきました。充足した中に工夫とは生まれてこないものです。ところが、工夫しただけのはずなのに、そこに何故か美が介入してきました。

暑さに困り果て避けようとした人々は、自然と共に暮らすために魔法のような何かを求めたのでしょうか。それが創意や工夫となり、今まで誰も思いつかなかったことを考え出す知恵となり安心を得てきました。そこに昇華というものがうまれたのでしょう。

夏の掛軸には文明の利器ではあじわえない「涼」というものがあります。季節もの掛軸の中でも特に夏ものは「涼を取る」ことを意識して選びたいものですね。涼やかにさく花や草木、冷たさを感じさせる水、風を切る鳥、水に泳ぐ魚などがあります。

夏の風物詩

半夏生が半分お化粧をしたような花を咲かせてくれるころ、夏の支度がはじまります。納涼床(のうりょうゆか)で川のせせらぎに耳を傾け涼を取ります。

子供たちは七夕でどんな願い事をするのでしょう。海水浴でスイカはうまく割れるでしょうか。夏まつりで着る浴衣の肩上げはいつほどけるのでしょう。

お盆には懐かしく近しかった人たちを目印の迎え火で待ち、送り火で見送ります。

季節の掛軸

四季折々。春夏秋冬。夏。ここでは、季節掛けの四季のうち、夏にかける掛軸として朝顔、鮎、川蝉の掛軸をご紹介します。

朝顔の掛軸

朝顔の掛軸は6月から8月に掛けます。朝顔はもとは薄い青色ですが白、桃色、紅色、紫、濃紺などもあります。

朝顔という名前は、朝の容花(かおばな)という意味です。容花とは、美しい容姿を持つ花のことです。

朝つゆに濡れた朝顔には心が洗われるような美しさがあります。

朝顔のつるは風通しをよくしてくれ、涼風をはこんでくれるだけでなく風情があります。

その楚々としたすがたは、七夕のころ花が咲くことからも伝説にまつわる縁起の良いものとされました。

鵲(かささぎ)という鳥が羽根を連ねて織姫と彦星の橋渡しをしたといいます。

鮎(あゆ)の掛軸

鮎の掛軸は7月から8月まで掛けます。透明で清らかな水でしか生きられず「清流の女王」とよばれています。独特の香気があることから香魚(あゆ・こうぎょ)とも表記されます。

蓼酢(たです)でいただくと美味で季節を味わうことができます。

願い事が叶うか魚釣りで占った神功皇后(じんぐうこうごう)の鮎釣り伝説は有名です。たちまち鮎が釣れ、神が味方し願いが成就すると確信したといいます。諸説ありますが「鮎」という字の由来ともいわれています。

川蝉(かわせみ)の掛軸

川蝉の掛軸は7から8月頃掛けます。頭から背にかけて水色。両翼からのぞく背色が光のあたり方で緑色にも見える。腹は橙色(だいだいいろ)。その美しさは「翡翠(ひすい)」、「青い宝石」ともよばれ、「渓流の宝石」などと呼ばれることもある。くちばしが長く、水に飛び込んで魚を捕り、飛ぶときは水面近く速く直線的に飛び、翼を水にたたきつけて浮き上がります。このときに鳴き声をあげます。

川蝉の掛軸は水辺で風を切る宝石のような美しいすがたが爽やかです。

そのほかの夏の掛軸

百合、石楠花(しゃくなげ)、紫陽花(あじさい)、杜若(かきつばた)、燕(つばめ)枇杷(びわ)、芙蓉(ふよう)、撫子(なでしこ),鉄線(てっせん)、露草、薊(あざみ)柳(やなぎ)

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