冬の掛軸

冬の掛け軸

冬の掛軸(掛け軸)とは

掛軸(かけじく)。その魅力をご存じでしょうか。温故知新(おんこちしん)という言葉があり、「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」といいます。

掛軸は美術館や旧家で見るものだと思われていますが、そうでしょうか。掛軸を身近におくことは、「手触り(てざわり)」というものを感じることが少なくなった今、「あたたかさ」や「情感」、「実感」をもたらしてくれます。

掛軸に描かれた花や草木が、自然の厳しさを受けとめても美しくある様を見せてくれます。

忍ぶ冬といいますが、しんしんと静かに降る雪、木々に降り積もった雪景色、誰も足を踏み入れていない純白の雪には、息を呑むような静寂の美があります。

陽光のなかで白いものは見えず、暗がりのなかで黒いものは見えないといいます。

四季の移りかわりは、それぞれの季節を際立たせます。春があるから冬が来て、冬があるから春が来ます。

「山が笑う」という表現があります。なんと優しいまなざしでしょうか。

笑うという言葉は、嬉しいとき、可笑しいとき、照れたとき以外にも、緊張がほぐれたとき、ゆるんだとき、引き締まっているものが解けたときにも使われます。

春がそこまで来ている冬の終わりに、山の頂の雪が解けていく様を、情緒ゆたかに「山が笑う」とはじめに表現したのは、どのような人だったのでしょう。

冬の掛軸には、「春を待つ」という心待ちがあります。季節もの掛軸の中でも冬ものは、「待つよろこび」を感じさせるものを選びたいですね。春のあたたかさを際立たせる雪と花鳥のとりあわせ、寒さの中でも美しく咲き、いち早く春を告げてくれる花などがあります。

冬の風物詩

お正月は新しい年の始まりを祝います。長寿、成長、希望を象徴する松竹梅や、「難を転じる」南天を飾ります。「人日(じんじつ)の節句」には七草粥をいただきます。梅、寒椿、山茶花が咲き、あとは春を待つばかりです。

季節の掛軸

四季折々。春夏秋冬。冬。ここでは、季節掛けの四季のうち、冬にかける掛軸として、梅(うめ)、南天(なんてん)、椿(つばき)の掛軸をご紹介します。

梅(うめ)の掛軸

梅の掛軸は12月から3月頃まで掛けます。冬が明ける前にいち早く春の訪れを感じさせてくれる梅は、日本文化に馴染みが深く、昔からおめでたい花とされてきました。

春告草(はるつげぐさ)、匂草(においぐさ)などの別名をもち、その花の色は白、淡紅、紅色などがあり、つぼみのうちと開いたときの花の色のちがう美しいものもあります。

「かさねの色目」を彷彿とさせる微妙な花の色の変化は、平安貴族が着衣に自然の色をとりいれ、配色作法としたのも頷けます。馥郁(ふくいく)たる梅の香りともいわれ、匂いたつようです。

「四君子」のひとつでもあります。中国で君子とは徳と学識、礼儀を備えた人を指しました。花の持つ特徴が、まさに君子の特徴と似ていることから、蘭、竹、菊、梅の4種のうちの冬の花として取りあげられ、早春の雪の中で最初に花を咲かせる強靭さに人々は心を打たれました。

また、「松竹梅」のひとつで松や竹と同じくらい縁起がよいとされました。「松竹梅」は中国の「歳寒三友(さいかんさんゆう)」が日本に伝わったものです。

松と竹は寒中にも色褪せず、梅は寒い冬に花ひらく事から、「清廉潔白」と「節操」という文人の理想を表現したものでした。

慶事、吉祥の象徴として、おめでたいとされる日本の認識とは違いますが、どちらの解釈も良いこと尽くめですね

掛軸としては梅だけを描かれるほか、正月には鶴と亀をとりあわせた「松竹梅鶴亀」、ほかに、漢詩から由来して「梅に鶯」はとりあわせがよく美しく調和するものとされ、仲の良い間柄にたとえられています。

南天(なんてん)の掛軸

南天の掛軸は12月から2月頃まで掛けます。夏に咲いた白い花は、冬に赤い丸い実をつけます。葉が竹に似ていてとても綺麗です。

中国では灯火を連想して「南天燭(なんてんしょく)」といい、「燭(ともしび)」を意味します。ここから名前がついたといわれます。

南天の掛軸は「難を転じる」といわれ、それだけで邪気を払うとされますが、福寿草(ふくじゅそう)ととりあわせることで、「難を転じて福となす」され、さらに福をもたらすといわれます。縁起がよいので正月にも掛けられます。

椿(つばき)の掛軸

椿の掛軸は11月から3月頃まで掛けます。紅色や白色の一色で咲くものは目が覚めるように美しく、白と紅の絞りの「侘助(わびすけ)」も味わい深く趣があります。

椿は古くから伝わる文献にも登場し、邪気を払う神聖な木とされています。

また、風雅な意匠(いしょう)として調度品にも施されました。

千利休(せんのりきゅう)が好んだ花ともいわれ、茶花としても愛されています。

真冬でも鮮やかな色の花を咲かせ、濃い緑の葉をつけていることから、「不屈」の生命力を示し、立身出世、長寿を象徴し、縁起がよいといわれています。

椿の掛軸はその花の美しく愛らしい形と鮮やかな色、飾り気のない様子が好まれています。

花に雪が積もった図や、小鳥とのとりあわせの図など、とても風情があります。

そのほかの冬の掛軸

福寿草(ふくじゅそう)、水仙(すいせん)、山茶花(さざんか)、千鳥(ちどり)などがあります。

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